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「嘘つきは泥棒の始まりって言うけど、正直者は泥棒になれないのかな」  明るいリビングの真ん中に立った彼女は疑問を口にする。独特の臭いが鼻をついた。 「正直者は馬鹿を見るだけ? ほんとに? ちなみに私は今まで嘘をついたことないよ。そりゃ空気を読んで言わないとかはあるけどさ。ほら、さっきも正直に言ったでしょ」  にこりと笑う彼女の笑顔は、今朝見たものと変わらない。  いつも通りに同じ教室で隣の席に座っている古藤(ことう)さん。変わったことといえば、ここが教室ではなく彼女の家で、隣の席ではなく僕と対面するように立っていることくらいだ。  そして彼女の周りにはクラスメイトの代わりに、大量の猫がいる。   「飼ってないけど、猫はいるよ」  昨日の放課後に僕が彼女に向けた質問への答えを繰り返して、彼女はまた笑った。  どうして笑っているのか僕にはわからない。欲しかったものが手に入った喜びなのか、自分の仮説を証明できた達成感なのか。  僕にはわからない。とにかく目が痒い。   「……そんなこと」  そう言い切ってしまっていいのか、一瞬迷った。  彼女にも事情があるのかもしれない。その結果、こういう事態を招いてしまったのかもしれない。そこには僕の想像に及ばない何かがあるのかもしれない。  それでも、僕の口からはこんな言葉しか出なかった。   「そんなことのために、君はそれを盗んだの?」  僕の質問に彼女はいとも容易く頷く。  ひどく素直に、正直に。 「うん、そうだよ。欲しかったから」  古藤さんの周りにはケージに囲われた大量の猫がいる。  彼女がクラスメイト全員の家から盗んだ猫だ。 
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