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「なんで、猫なんだ」
不可解な点は色々あって、むしろありすぎたが故に混乱した僕はそんなことを彼女に訊いた。古藤さんもその質問は予想外だったようで一瞬きょとんとしたが、すぐに気を取り直す。
「やっぱり泥棒の家族は泥棒猫かなって思うんだよね」
古藤さんは本棚の上に置かれたケージを撫でた。その手に猫が内側から爪を立てようとして「おっと」と彼女は檻から手を離す。
部屋の至る所にケージが置かれていた。テーブルの下、椅子の座面、テレビの横、ソファのひじ掛けの上、そのすべての檻の中に猫がいて、機嫌の悪そうな鳴き声を喚かせる。
「ここにいる子たちはみんな泥棒なんだよ」
「ここにいるのはクラスのやつらの家族だ」
「それはそうだね。でもこの子たちを盗まれたのは、この子たちが泥棒だったからだ」
はっきりと言い切って「なんで泥棒猫なんて言葉があるか知ってる?」と続けた。僕は首を横に振る。
「猫って昔、誰の家にでも入り込んで食べ物を盗んでたみたいだよ。だから泥棒って言われてたんだって」
僕の「へえ」という小さな相槌は、どこかの猫が金属の檻に身体をぶつけた音で掻き消えた。彼女はそちらに見向きもしない。
「だから実験してみたの。クラスのみんなの家の近くにケージを置いて、その中に猫の好きなおやつを置いといたんだ。ほら、あの猫が夢中になるやつね」
そこで彼女は呆れたような笑みを浮かべて、両手を広げた。
こちらがその結果です、と言わんばかりに。
「そしたら、みんな捕まってた」
なるほど。ペットでも猫は放し飼いされている家が多い。
そうでなくとも、猫が外に出たいと訴えれば窓を開けてしまう飼い主もいるだろう。なぜか猫だけは自由の幅が広い。
そして、その隙に盗みを働く猫もいるのか。
「愉快だと思わない?」
猫の不機嫌な声が明るいリビングに響く。その両目の瞳孔は細く、可愛さよりもずる賢さのほうが強調されて見える。
古藤さんは近くの猫と目を合わせて、にこりと微笑んだ。
「嘘つきが馬鹿を見るなんてさ」
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