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「嘘でしょ」 「うん、嘘かも」  彼女の言葉に僕は頷く。  さっきの僕の言葉はまるっきり嘘で、もしかしたら何か面白そうな予感がする野次馬精神が働いただけかもしれない。 「でも、本当かもしれない」  どれが本当でどれが嘘なのか、自分でもわかっていなかった。  確かに僕は彼女の言葉に惹かれたのだろう。ただ、彼女が来てほしいと言うなら僕は遊びに行きたいし、もっと仲を深められるなら深めたいという気持ちも間違いなくあった。 「どっちなのよ」  そう問われても、僕には答えられない。僕はそこまで確固たる意志を持った人間ではなかった。僕の中にはたくさんの本当がある。  それでもただひとつ、言えることがあるとすれば。 「猫をみんなのところに返してほしい」  その台詞を聞いて「やっぱり正義感じゃん」と古藤さんは小さくぼやいた。僕は首を横に振る。  正義なんて曖昧なものじゃなく、もっと現実的な問題だ。 「目が痒いんだ」 「あ、アレルギー」 「そう。ほんとここは地獄みたいな場所だ。もう今すぐにでも出ていきたい」  僕は熱を持ち始めた両目で彼女を見る。説得なんてする気はない。  ただただ、僕は友達にお願いするだけだ。 「だからここにいる猫を全部返してほしい。それから窓を開けて、部屋の掃除をしてほしいんだ。隅々まで入念にね。水拭きをしたらすぐに乾拭きをしないと意味ないよ。あ、カーテンレールは意外とゴミが貯まりやすいから気を付けて」 「姑か」 「それでこの部屋がピカピカになったら」  呆れたように息をつく彼女に、僕は言う。  この言葉は嘘じゃない。むしろひどく利己的で正直すぎる気持ちだ。  数ある本当の中の、確かなひとつ。 「また遊びに来たい」  だから君だけは猫を飼わないでくれ。  僕がそう伝えると。  彼女は、友達から教科書を見せてほしいと頼まれたときのようなあっけなさで「うん、いいよ」と頷いた。 「え、いいんだ」 「うん。よしとする」  あまりに容易く頷くものだから、僕は思わず訊き返した。  古藤さんはその瞳を真っ直ぐこちらに向けている。  彼女の世界にはもう、猫は一匹もいないように思えた。 「結構楽しかったしね、今日」
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