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だからこそ、これは影武者にとっても、命をかけたミッションだった。
影武者は警備も指揮のやり方も有坂龍一そのものになりきり、世界最高峰の男を完璧に演じきった。
今の今の瞬間まで、誰にも疑われなかった。
だけど、美百合にはバレていた。
でも美百合が気づいたのは、今ではなく、ずっと以前の話だ。
そうなると、バレたのは影武者ではなくて、有坂龍一の方だということになる。
あの世界最高峰のスパイの変装を見抜いた?
しかも現在進行形で、見抜いたことを気づかせていない?
そのことを悟った影武者は、少し離れた場所に立っている『龍』の顔をした龍一を見やる。
彼は、鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
その瞬間、影武者は、今回の件については永遠に口を噤むことを決意する。
迂闊なことを口走れば、間違いなく死に直結する。
「じゃあ、家に帰ろうか」
影武者は美百合に声をかけた。
本当なら肩でも抱いてエスコートしたいところだが、命が惜しいので、余計なことはしないでおく。
これから本物の有坂龍一と入れ替わることが、彼の過去最高のミッションインポッシブルになりそうだ。
――了――
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