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🔔サンタは僕か、それとも君か
「あの時は、プレゼントありがとう」
気の利いた前置きもせず、僕が沈黙を破って話しかけた。君は前を向いたまま、うんうんと頷いた。
「よく僕に気付いたね?」
と聞いても君は、うんうんと頷くだけ。
もしかしたら君の中では、何もなかった過去になっているのかもしれないと思った。でも僕は今日、あの時のことも、今日までの君も、これからの君も知りたいと思った。
どうしよう、これ以上なにを話せばいいのだろうと思いながらできるだけ君の歩幅に合わせて歩いた。雪の夜は静かだ。
すると突然、君が静けさにそっと言葉を乗せた。
「お誕生日、おめでとうございます」
予想外の言葉に、さすがに僕のマイペースも乱れる。
「え、知ってたの?!」
「だって…クリスマスだけど、誕生日プレゼントだったんですよ、そのマフラー」
そう言って君が僕の首もとを指差す。
僕をあたためているのは、あの日突然君がくれたマフラーだった。
だからあんなにすぐ僕だと気付いたのか!という遅れたヒラメキで僕は急に恥ずかしさが込み上げる。あれから毎年冬には、当たり前のようにこのマフラーを使っていたので気付けなかった。
「僕は、君がうっかり姿を見せたサンタだったと思う事にしてたんだ。だからもう会えなくてもしょうがないと…」
「サンタさんみたいなお仕事頑張ってるのは、私じゃないよね?」
驚いたままの僕の顔を一瞬見上げ、君はふふっと笑うとまた歩き始めた。僕の仕事のことも、君には全部お見通しだったんだ。
ゆっくり、サクサクと雪を踏みしめながらぎこちない距離で歩く2人。僕はさりげなく、さっき買い物した袋を君とは反対側の手に持ち替えた。最初の信号待ち直前で、案の定また君が転びそうになった。
「また転ぶでしょう?だからもう、離さないよ」
君の小さな片手を、僕のコートのポケットに入れた。
2人の頬が赤いのは、寒さのせいか、僕のせいか。
サンタは僕か、それとも君か…。
今日という日に再びめぐり会えた僕たちは、お互いの瞳を覗き込んで息ぴったりに同時に言った。
『メリークリスマス!』
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