姉妹

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姉妹

あれから十数年。 うめとさくらはもう立派な女へと育っていた。 俺が禅や剣に励んだ時間は、うめやさくらにも平等にもたらされ。 さくらもうめももうすぐ数えで18になる。 うめはうめで、もう子供のようなダダをいわなくなったし。 さくらはさくらで、叱るばかりではなくなってきた。 二人がまだ小さい頃。 母を鬼にさらわれながら。 父親一人に育てられ。 俺を見習わず。 二人とも、立派な女に育ったと思う。 さくらはこの前、近所の年頃の男。 六介のことを気にかけていた。 さくら自身はそれを否定するが。 しきりに、今まで祭りでなんども会っているはずのあたしを覚えていなかった。 と愚痴っている。 自分もとねにこういわれていたのかと思うと。 笑えてくる。 親子とは似るものだと思う。 うめは口には出さないけれど、畑仕事を終えたあと。 こっそり逢引している気がする。 手を洗う時間がやけに長かったり。 晩飯の直前までどこかに行っている事が増えてきた。 自分もそうやってとねと会う時間を作っていたのだしと。 若いときのことを振り返っては。 諸行無常と思ってしまう。 全ては移り変わり。 子供は年頃となり。 自分は年を取り、おじさんへと変わっていく。 もし、さくらやうめが子を産めば。 おじいちゃんと呼ばれる日もそう遠くはないだろう。 でも不思議ではない。 とねで言えばもうこの二人を産んでいる歳なのだから。 いつ嫁に取られても不思議ではない。 そんなことを考えながら酒をあおる。 口に広がる甘さと辛さ。 その辛さがじっくりじっくり回って。 やがて酔わせてくれる。 うめは寝る前に、しきりに手で髪をとかしている。 さくらはそろそろ寝ようと食器を片付けたり。 灯りの始末をしている。 この姉妹のこんな日常が絶え間なく続き。 よき夫のよき妻となり。 子を産んで。 その子に慕われる母であって欲しい。 そう願いながら。 ぼんやり二人を見つめる。 【うめ】 「もうねるよ?お父さんはまだお酒飲むの?」 【言三】 「おやすみ、ああ、もう少し飲んでから寝るよ」 【うめ】 「そっか、おやすみぃ」 【言三】 「おやすみ」 そう挨拶するとうめは床に入る。 寝るのを邪魔しないように。 小さな灯りに切り替え。 周りが暗くなうようにする。 さくらもこのまま食器の整理が終われば。 床に入るのだろう。 自分もたまには早く床に入ろうかと、徳利の中身を全て茶碗に注ぐ。 それをちびりちびりとあおっていると。 さくらが現れる。 【さくら】 「飲みすぎはいけませんからね?」 そんなことを言いながら。 さくらが持ってきたお盆には。 酒が入っている徳利とキュウリやナス、大根の漬物が乗っている。 【言三】 「ああ、わかってるさ、ありがとう」 せっかく寝ようと思っていたのに。 なんて無粋なことをを言って娘から出された。 酒と漬物を断る理由もあるまい。 徳利を傾け酒を少しずつ茶碗にそそぐ。 一口酒を飲み、口に漬物をほおばる。 心なしか、いつも一人で飲んでいる酒よりもうまく感じる。 いや、感じるのではなくうまいのだろう。 少し泣きそうになった。 それは、とねが恋しくてではない。 教えずとも、こうやって育ったさくらに対してだった。 父親なりに馬鹿を言えば。 さくらと夫婦となる旦那が少しねたましいと思うくらいに。 さくらやうめは大きくなったと再確認した。 そんなことを考えていると、さくらが空になったはずの徳利を持ってもう一度戻ってくる。 【言三】 「まだ、飲み終わってないぞ?」 【さくら】 「これは水です」 【言三】 「水?」 【さくら】 「水を飲んでから寝ると二日酔いに良いらしいから、飲んで寝てね?」 【言三】 「そうか、ありがとう」 【さくら】 「それじゃあ、おやすみ」 【言三】 「おやすみ」 そう挨拶を交わすと。 さくらは床へと向かう。 俺はまだ少し酒を飲みながら余韻に浸る。 この姉妹の幸せは。 なんとしても俺が守りきる。 そう密かに心の中で誓いつつ。 夜更けに、ぼんやりと酒をあおっていた。
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