朝連

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朝連

剣を習い始めてから3年。 島に一人の坊主が流されてきた。 無人だった寺に住職が住むこととなった。 そんな坊主がある日、やってきた。 【???】 「はじめまして、ここが言三さんの家で間違いないですかな」 【言三】 「確かに、俺が言三だ」 【???】 「そうでしたか、わたくしはつい最近この島にやってきました朝連と申します」 【言三】 「ほぉ、朝連さんと言うのか、話は聞いている、上がってお茶でもいかがですか?」 【朝連】 「いえいえ、今日はあいさつ回りだけですので、この家は言三さんだけですかな?」 【言三】 「いえ、娘が二人」 【朝連】 「娘さんがたにも挨拶させてもらってよろしいですかな?」 【言三】 「はい、しばしお待ちください」 朝連さんを玄関に待たせ。 俺はうめとさくらを呼んで来る。 うめとさくらは始めてみる坊主に驚きながら小さくお辞儀し、すぐに居間へと戻っていった。 【言三】 「すみません、人見知りが激しい姉妹なもので」 無礼なことを言わなかったか探りを入れながら朝連さんに詫びを入れる。 【朝連】 「いえいえ、可愛いお嬢さん方ですね、あの娘さんがたはどこの生まれです?」 【言三】 「あの娘はこの鬼界島で生まれました」 【朝連】 「そうでしたか、奥方ともこの島でお知り合いに?」 【言三】 「ええ、女房はこの島に昔から住んでいる家の娘さんです」 【朝連】 「なるほど、なら思い過ごしかもしれませんね」 【言三】 「なにかうちの娘に問題でも?」 【朝連】 「いえいえ、そんなことは無いんです、多大前お会いした朝廷の方々に似てるなと思ったんですが、思い過ごしでしょう」 【言三】 「はっはっはっ、それは他人の空似というやつでしょうな、朝廷の親戚と私みたいな百姓が結婚できるわけも無い」 【朝連】 「すみません、考えすぎだったのでしょう」 まったく、変わった冗談を言う人だと思いながら朝連和尚としばし談笑する。 この島の四季のこと。 行をするにはどこがいいかなど。 坊主らしい質問だった。 そしてまもなく朝連さんが帰ろうとしたとき。 【朝連】 「そういえば言三さん、禅などに興味はありますかな?」 【言三】 「ゼン……とは?」 【朝連】 「座禅です、きいたこと無いですか?」 【言三】 「無いですね」 【朝連】 「今度よかったらご一緒にいかがです?楽しいですよ?」 【言三】 「よくわからないですが、楽しいことならやってみたいですね」 【朝連】 「いえ、禅は苦しいです、足も痛くなります、でも己を見つめなおすのは楽しいです」 【言三】 「己を見つめなおす?」 【朝連】 「そうです、自分を見つめなおすんです、座禅をしながら」 【言三】 「と言われてもしっくりきませんね、一体何をするのかも察しもつきません」 【朝連】 「最初はみなそうです、言三さん是非やってみませんか?」 【言三】 「わからなくてもできますか?」 【朝連】 「もちろんです、都合のいい日に寺にいらしてください、最初はお試しと言うことで是非」 【言三】 「分かりました、近いうちに顔を出しますよ」 【朝連】 「ではお待ちしています」 【言三】 「はい、お伺いします」 朝連さんが深々と頭を下げて家から出て行く。 出口まで見送って。 朝連さんの姿が小さくなってから。 家の戸を閉める。 中に戻るとうめとさくらが駆け寄ってくる。 【うめ】 「おとうさん、あのハゲあやしかったよ」 【さくら】 「ほら、ハゲっていわないの、あの人はきっと偉い人なんだから」 【うめ】 「おとうさんあの人と何はなしてたの?」 【言三】 「お寺にザゼンとやらをやりに来ないかと誘われた」 【うめ】 「ざぜんってなに?」 【言三】 「お父さんもよく分からない、でも自分で自分を見るらしい」 【うめ】 「ん~、すごく難しそう」 【言三】 「うん、そうだな、お父さんも行って見てあんまり難しいようだったら続かないかもしれない」 【さくら】 「よく分からないのによく行く気になったわね」 【言三】 「仕方ないだろ、この島にお坊さんが来たのは初めてなんだし、それにむげに断ってもまずいしな」 【さくら】 「それもそうだね」 娘二人をなだめながら、居間へともどる。 二人ももう10になる。 月日の流れは早いのか遅いのか。 俺自身がよく分からなかったりした。 とねがさらわれてしまった日は昨日のようでもあり。 遠い昔の記憶のようでもある。 でも一までにかけて信繁先生との出会いもあり。 今がある。 あれから毎日素振りをして。 その間にもうめとさくらは家の仕事や畑仕事を覚え、確実に成長しているように感じられる。 そして今日は坊主が流刑されてきた。 予想すらしていなかった出来事である。 村の言い伝えによれば、あの寺は自分がこの島に来るだいぶ前に。 使者の供養を行う場所として建てられたとは聞いた。 でもそこの寺に和尚が住むのははじめてだろうと思う。 そう考えるとこの島も、自分も娘達も。 確実の変わっているのだろうなと身をもって感じる。 しかしザゼンとはなんだろうかと考えながら。 夕飯の支度をする。 自分が知らないことを知るのもまた、いい機会だと思う。 明日か明後日、寺に顔を出してみようと思った
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