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さくら
【さくら】
「おとうさん、昨日もまた4合空にしたの?」
高くて鋭い声。
酒を飲んで寝たばかりの頭にズキズキと響く。
【言三】
「なんだ、さくらか、どうしたんだ?」
【さくら】
「どうしたじゃないわよ、一昨日もらってきたばかりの酒をもう空にしちゃって、作兵衛さんにお酒もらいに行くのあたしなんですからね!!」
【言三】
「いいじゃないか、作兵衛さんはうちの酒だったらいくら持っていってもいいといってるんだし」
【さくら】
「よくありません、毎回、毎回、干し芋とか漬物とか置いてきてるし」
【言三】
「うちにはどっちもいっぱい有るだろう?」
【さくら】
「そういう問題じゃないんです!!おとうさんは飲みすぎなんです」
【言三】
「よかろうに、飲めるのだし」
【さくら】
「よくありません、大黒柱が飲みすぎて倒れたら大変なんです!!」
【言三】
「わかった、わかったから、あんまりがみがみ言うな頭に響く」
【さくら】
「ほら、やっぱり二日酔いなんじゃないですか、これからは5日はかけて飲んでください」
【言三】
「一日1合も飲めないのか、そんな殺生な」
【さくら】
「じゃあ、4日で飲んでください」
【言三】
「もう一声」
【さくら】
「だったら三日でいいです、二日酔いしないでよね」
【言三】
「わかった、助かる、酒は百薬の長だからな」
【さくら】
「でも飲みすぎは体に毒ですから、ね?」
【言三】
「わかった、気をつけるよ」
【さくら】
「それじゃあ、お酒もらいに行ってきますから、畑の草見といてくださいね」
【言三】
「分かった、いってらっしゃい」
さくらを見送って、床から這い出て布団をあげる。
寝巻きを脱いで畑仕事をするための支度をする。
【うめ】
「さくらは朝から機嫌悪かったね」
【言三】
「まぁ、俺を心配してのことなんだろう」
【うめ】
「おとうさんは何か悪いことしたの?」
【言三】
「まぁ、少し飲みすぎただけだ、いや、だいぶ飲みすぎたか」
【うめ】
「さくらもあんなに怒らなくていいのにね」
【言三】
「まったくだ、口うるさいのはとねに似たのかもしれん」
【うめ】
「おかあさんもよく怒ったの?」
【言三】
「ああ、さくらそっくりな怒り方だったな」
【うめ】
「お母さんも怒ると怖かったんだね」
【言三】
「それは怖かったさ、よし、うめ、草取りに行くぞ」
【うめ】
「うん、日が昇らない涼しいうちにやっちゃおう」
【言三】
「おう」
うめをつれて畑に向かいながらふと思う。
娘達ももう大人になってきている。
とねがさらわれてからもうだいぶ経つと言うのを身にしみて感じた。
俺から俺は素振りや構えの練習を始め。
座禅にも通い。
あの頃とは色々と変わったのだなと振り返る。
姉妹もそろそろ13。
とねが俺の嫁になったのは15のとき。
うめもさくらも若いときのとねに似てきたなと思う。
と言うことは、鬼が来るのも数年後か。
その数年で、剣を習得し。
座禅で己の心を磨く。
しっかりと鬼を迎える支度をしなければと。
心の奥底でひそかに固く誓うのだった
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