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二
授業はしっかり受けなければならない。定期テストで学年ベスト3をめざす健ならなおさらのこと。だがそんな健でも、授業に集中できないときがある。
男子生徒たちが、定期テストのときしか注目されない健のことをジッと見つめていたことを、「陰キャラ」で「ぼっち」の健はまるで知らない。
女子生徒たちまで、教室で健のことを噂していたことを、「陰キャラ」で「ぼっち」の健はまるで知らない。
「今日って日下くん、恐ろしくなるほど陰キャラモード!」
「何か、ギリギリまで追いつめられてるって感じ」
なぜ健は、女子の噂になるほど、マイナスのオーラが漂っていたのか?
昨夜のこと。大阪の母からの連絡が、ただの「ぼっち」で「陰キャラ」の健を、怖い人に変身させたのだ。
警視庁の刑事だった父が亡くなってからは、母と二人暮らし。だが中二の春から母は、大阪に単身赴任。健はひとり暮らしだった。母の仕事が忙しく、小さい頃から家事は殆ど健がしていたから、特に不便は感じなかった。
一応、週に二回、家政婦さんが来てくれた。
「お祖父さんとね、今度あなたのことで相談する」
「僕、イヤだ~。警察になんか入らない。お母さんだって警察入らなくて検事になったんじゃ……」
「ごめん、お母さんを追求しないでよ。お祖父さんは警視総監、警察庁長官を務め、最後は国会議員にまでなって今でも政界や警察に影響力を持ってる。親戚は、みんな警察幹部。可哀想だと思うけど、健ひとりが抵抗してもムダみたい……。」
「そんな! お母さんは助けてくれないの? 大阪検察庁特捜検事なのに……」
「悪いけど特捜検事の管轄外です」
毎日不自由なく生活出来ているのだから悪い家に生まれたとはいえないはずだけど、この状況というのはやっぱり……
(僕って不幸な星の下に生まれたのだろうか? 中学二年までは変な上級生に苦しめられ、今は警察ファミリーに苦しめられるなんて……)
だが、健の苦しみはそれでは終わらなかったのだ。
一時間目の休憩時間。数少ない友人の丸山くんが、満面の笑顔で健の席に近づいて来たのだ。
健は親族親戚のことは学校では秘密にしている。それに当然だが、「ぼっち」の家系に興味を持つクラスメイトなんかいない。
「日下! お前、何か悪いことしたらしいな?」
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