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三
いきなり声をかけてきて、失礼なことを言う丸山くん。
「何のこと? この前、君にノート貸したよ。そんなこと言われる覚えなんてないけど」
「日下は町の図書館で勉強してるから、すぐ下校するだろう。お前が帰った頃に、校門の前に女子高校生が現れた。うちと同じ、ブレザーの制服を着てた。西尾市の『青陵』じゃないかって誰か言ってた。男子をつかまえ、スマホの写真見せて、
『この少年を知ってるか』
と聞いて回っていた」
一瞬、不吉な連想をした。ない、ない、ない、ない、絶対あり得ない。
「それで……」
「すごく可愛かったな」
「だからね。スマホの写真って?」
「お前の写真だった。中学のときだろう。変わってないな」
「それで君って!」
「『一年特進コースの日下健』だと答えておいた。お前の名前出したら、すごく嬉しそうな顔してたな。
『町の図書館で勉強するから、いつも早く学校を出る』
と教えといた」
「ちょっと待って! 君、そんなことまで話したの?」
「だって彼女がお前のこと、
『この少年はサ、あたしにひどいことをしたんだ。だから必死で探している』
とオレたちに言ったんだぜ」
「そんな~」
祖父は政界、警察界の大物。亡くなった父は警視庁の伝説の刑事。母は大阪検察庁の特捜検事。親戚は警察庁総監をはじめ警察幹部がズラリ。そんな家柄の健が、悪いことなんてする筈がない。だが自分の親族親戚のことは秘密なので、それ以上のことは言えない。
「オレだけが言ったんじゃないぞ。お前のこと知ってるヤツはみんなベラベラ話してたぞ」
「なんで~~。僕、君たちに何か悪いことした?」
テストのときはノートだって貸してるし、聞かれればテストのポイントだって教えているのに! なぜだ~~。
「その女子生徒がな。
『スマホの写真見てくれたらハイタッチ。情報くれたら、ツーショット』
そう言ったんだ」
健は、自分の周囲の男子生徒全員に強い不信感を抱かずにはいられなかった。
「それで、その女子生徒だけど……」
健の質問を遮るように、
「見ろ。その子と撮ったツーショットだ」
ボブの茶髪、大きな両眼が猫のようにつりあがって口は大きい。色白で美人なんだが、冷酷残酷そうな雰囲気が漂っている。短いミニスカートからは、マシュマロみたいに盛り上がった大きな太腿が見えている。美人なのだが脚は異様に太く、はちきれんばかりの紺のハイソックスが妙にセクシーだった。
何考えてるんだろう。銀色ドクロのイアリングなんて……
(まさか、このイアリング……。僕に向けたもの⁉︎)
健の黒歴史。月影サキが健を探している。
(リベンジ)
健の心の中を、その言葉が駆け巡る。まさか、ここまで追いかけてくるなんて夢にも思わなかった。
健はそのまま、気分が悪くなり、保健室に急行した。
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