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Prologue
その男はときどき、服を着たまま私を抱く。
当然、甘い言葉も雰囲気づくりもない。
今だって、彼のアパートの玄関で靴を脱いだら、そのまま背中を押され、廊下の壁に押しつけられた。
後ろから伸びてきた手がジャケットを脱がせ、前に回った手がブラウスのボタンを外す。
左の首元で束ねた髪を除け、背中を抱きながらうなじに唇を付けてくる。
うなじの唇は右耳に到達すると、耳たぶを舌で嬲ってくる。
その頃にはブラウスの前ははだけ、右手がブラの中に、左手はウエストからボトムスの中に入ってくる。
耳を舐りながら、さっさとブラの留め具を外すのだけど、相変わらずブラウスはそのままだ。
「…着たままするのが好きなの?」
そう聞いたこともあった。
「…たまたまですよ。
この身体に呼ばれているようで、脱がすまで待てない…」
…まあ、「うちに来ますよね」と言う言葉に逆らわなかった時点で、もう身体を許しているようなものなんだけど。
ブラの下から手が入ってきて、大きく胸を揉まれる。
お尻に当たる男のソレが、だんだん硬くなってくるのを隠そうともせず、むしろ服越しに分からせようとする。
その頃には、私の柔らかな素材のボトムスのジッパーを下げ、床へストンと落としてしまう。
左手が胸を、右手がショーツの中に入ってくれば、自分の吐息が熱く、甘くなっているのを感じる。
…このまま、ここでするんだろうか。
こうして、流されて抱き合うこと数回。
もう、どこをどうすればお互いの身体が喜ぶのか分かってしまっている。
そうやって私たちは、先のない不毛な関係を続けている。
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