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拝啓〇〇様へ。
お元気ですか。最近急に寒くなってきましたが、風邪を召されていませんか。
なんて、堅苦しい表現になっちゃったね。
それに、わたし、こっそりあなたのSNSみてるからあなたの近況は一応知ってるつもりなの。
最近東京まで電車旅したこととか、推しのライブに久しぶりに行けて嬉しかったこととか、素直で明るいあの娘と一緒にお祭りに行ったこと、とか。
ごめんね、気持ち悪いよね。
でも、あなたと繋がれないからゆるしてくれませんか。
わたしといると、あなたを傷つけてしまうだけだから。
あなたの優しさにいつも応えられなかった、変われなかったわたしはあなたといる資格なんか、ないから。
あなたのしあわせを願いたいのに、ふとした瞬間にあなたと一緒に街をふたりで歩いている未来を懸想してしまう。
かなうことなんか、もうないのに。
未練がましくあなたとの想い出に囚われている。
夜遅くまで電話したときのあなたの笑い声とか、なぐさめてくれたときの不器用ながらも優しい言葉とか、たのしそうにいじってくる無邪気な横顔とか、急に誘ってくるところとか、最後に逢ったときにくれたプレゼントとか。
ぜんぶが、ぜんぶが、いとおしくてくるしくて、この気持ち自体を抱えたまま生きるのがくるしくて。
いっそのこと、ぜんぶなかったことにできたらよかったのに、なんていえないくらいあなたと過ごした時間がいとおしくていとおしくてしかたなくて。
時間が経てば経つほど、きれいに美化されて宝石のように煌めいてみえて。
このきれいな想い出を傷つけられたくないから、だれにもこの気持ちを打ち明けられなくて。
この気持ちを、そっとお気に入りの宝石箱にしまってしまいたい。
だいじな、だいじな、宝石だから。
好きだなんて、云わない。
あなたを困らせたくないから。
だから、せめてこれだけは云わせて。
『いままで、わたしに優しくしてくれてありがとう。あなたの言葉は、ちゃんとわたしの糧となり生きています。あなたがわたしにかけた時間は無駄になんてなってない。だから、あなたはしあわせになってください。それが、あなたにできる最初で最後の恩返しです』
それを伝えられるようになれるには、どれくらいの時間が必要だろうか。
いまは、まだ、あなたのしあわせをこころから祈れないかもしれない。
あなたが他の娘としあわせそうに笑い合ってる未来をこころから祝福できないかもしれない。
ねえ、あなたはいまこの夜空を見上げてなにを想ってる?
ほんの一瞬でも、わたしを思い出してくれている?
わたしは、いつまでも忘れられなくて、あなたが他の娘にアプローチされて一緒に出掛けたことを知ってざわざわするけれど、あなたから誘ったわけじゃないって知って内心優越感に浸っている無様で醜い姿に内心失望して。
あなたにもらったプレゼントを、いまだに捨てずに大事にしているなんて、だれにもいえない。
プレゼントは、あいてを支配するにはうってつけのツールなんて、あなたは知らずに気軽な気持ちで贈ってくださったのでしょうけど。
あなたは、つくづく残酷な人ね。
優しくて残酷な最低で最高な人。
ああ、また、かわいくないこといっちゃった。
友達にも『ほんとは、好きなんでしょ?』っていわれてもそんなことないって否定してしまう、意地っ張りでかわいくないわたし。
素直に好きっていえるかわいく恋する女の子が羨ましい。
わたしも、かわいく素直に好きっていえたら。
いつも意地張ってかわいくないことばかりしてる。
だれにもいってなかったけどね、ダイエットもメイクもスキンケアもネイルも服選びもヘアアレンジも家事もSNSもいつかあなたに会ったときに振ったことを後悔してほしくて、いや、あなたにかわいくなったって思ってほしくてがんばってるの。
あなたがいつか好きだっていってた肩出しコーデしてあなたといつか行った場所歩いて、あなたに会えること期待してる。
だれにも、ぜったいにいえないけど。
ああ、それにしても恋すると、ブサイクになってしまうからいや。
結局渡せなかった醜く溶けてしまうチョコレートのように。
あまくてかわいい恋心は溶けて、やがて醜くドロドロした気持ち悪い塊になってしまう。
もう、だれのことも好きになりたくないの。
あなた以外、いらないの。
あなたしか、わたしには、いないのに、あなたはちがうみたい。
あなたは、わたしの運命の人じゃなかったのね。
わたしにとって、あなたは運命の人なのに。
ああ、ごめんなさい。
また、かわいくないこといっちゃった。
だから、あなたのヒロインになれなかったのに。
わたしは、ヒロインになれない負けヒロイン。
ヒロインレースに負けてしまった意地っ張りなかわいくないおんな。
つぎは、素直にかわいく恋できますように。
この気持ちは、わたしだけのひみつ。
だから、この恋文も出さずに何重にも鍵をかけて宝石箱にしまうの。
ポラリスと運命の輪。
星占いに、ハッピーエンドの絵本。
少女時代にあこがれたお姫様には、わたし、なれないみたい。
ティンクルティンクル。
フォーゲットミーノットブルー。
どうか、星空は蒼くありつづけますよう。
流れ星の郵便配達員さん、わたしの気持ちをどこか遠いところまで運んでください。
そうしたら、やっと、あなたの幸福を心の底からの笑顔で祝福できる気がするから。
フォーゲットミーノット…。
たまには、わたしを思い出してね。
それだけで、わたしは、しあわせです。
だから、あなたはしあわせにわらっていてください。
あなたのしあわせが、わたしのしあわせだから。
いままで、ありがとう。
あなたの言葉が、わたしの支えになってるから、いまこうしてなんとかわらって毎日過ごせているよ。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
いつか、あなたとこんなことあったね、って笑い合える未来がきたらいいな、なんて。
こんなことをかんがえていたら、夜空が明けてきた。
深い青色の空が、淡い水色と桃色のグラデーションに空模様が変わってた。
空だって、いつまでもおなじじゃない。
よし、もう泣くのはやめよう。
大丈夫、大丈夫。
わたし、ちゃんと笑えてる。
急に肌寒くなったから、叙情的な感情になってたみたい。悲哀ぶってるポエマニスト気取りになってたみたい。やだやだ、恥ずかしい。
うん大丈夫、わたしは大丈夫だよ。
だから、この気持ちをちゃんと清算するよ。
昇る朝日をながめ、固く決意した。
いつか、あなたと笑い合える未来を夢見て今日もかわいくなれるように努力する、と。
朝日は、そんな決意を応援してくれているような気がした。
優しく包み込む朝日のベールを背に、今日もがんばるぞって気合を入れる。
おはよう、今日のわたし。
さようなら、昨日のわたし。
明日のわたしは、いまよりかわいくなっていますように。
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