《さくらとの日々の中で》

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 彼女の飼っている犬は、腎臓病を患っているらしかった。さくらもその兆候が見られると獣医師が言っていた。しかし、十七歳の年齢にしては奇跡的なほど健康だとも言われている。(もっ)()、最大の懸念事項は糖尿病で、医師(いわ)く、それが理由と思われる白内障が進行しつつあるとのことだった。テストの結果、症状は軽いらしいが、年齢も年齢であり、失明した場合には相当な負担となると告げられた。無論、そうなったとしても、私はさくらを見捨てたりはしない。  女性が、可愛らしいカードを手渡してきた。私的に使う名刺のようなものだ。 「わたしは(あき)()()()。シニア犬を飼っている者同士、情報交換しませんか。何だかあなた、()い人みたいな気がして。また会えるような気がするから、強引に会う約束しましょうよ」  彼女の笑顔は、心地よい安らぎを与えてくれた。私も名乗り、自分の異質さを告げた上で、人として、友達として付き合えたらよろしくお願いします、と言った。  彼女は私に奇異な目を向けなかった。それどころか、 「人間は性別や外見で判断するものじゃないよ。肝心なのは中身。わたしは相手が男でも女でもそれ以外でも、好きになった人が好き。一番大事なことって、お互いの気持ちだと思うの。気持ちが合わない人が理想の人になれるわけないもの」  そう言って明るく笑う彼女を見て、私もこの人いいなと思った。恋愛経験は全くない。ゆえに恋愛したいという気持ちもない。しかし、彼女とは良い関係が築ける予感がした。  ──これが、私と美奈の出会いだった。
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