《さくらとの日々の中で》

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《さくらとの日々の中で》

 私は学校にしばらく休むと連絡し、さくらとの関係を構築することから始めた。  一週間かけ、私が新しい主人であり友達だと覚えてもらう。さらに一週間かけ、どんな粗相をしても怒らないと教える。そこから二週間かけ、私が絶対に裏切らないと信じさせる。そしてまた一ヶ月かけ、さくらが散歩できる身体になれるよう、少しずつ体力をつけさせていく。  あの元飼い主が言うように、さくらは非常に穏和な犬だった。一度だって吠えない。何かをねだる真似もしない。そこに()って、私のすべてを見つめている。基礎体力がなく、無駄に動くこともしない。多くの時間はぐったりと横たわっていながら、けれども私に温かい気持ちを与え続けてくれた。  色々と試してみると、認知機能は衰えていなかった。芸というほどのものではないが、私の言葉をさくらなりに理解し、教えた行動はやれるように努力していた。トイレもちゃんとシートの上でする。とても賢い、出来た子だと感心した。  毎日ブラッシングをして、()(づや)も良くなってきた。立ち上がるときも脚が震えず、ごく普通の犬が立つ程度にはスッと楽に立てるようになった。一度だって食事を残したことはない。そのため、最初に会ったときよりは体重が増えてきた。  今なら、少し散歩ができるかも知れない。無理だったら、すぐに帰ろう。私はさくらの目を見つめ、そうしようと思うけどいいかな、と問いかけた。するとさくらは部屋の扉の前に行き、早く行こうよと言わんばかりに尻尾を振った。  私は微笑み、ダウンジャケットを羽織って、あらかじめ用意してあった散歩グッズを持ち、さくらを外に連れ出した。
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