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そうして夢を見た。 キラキラとした照明の中、私は浮遊するように歩いている。本の詰まった重たいダンボールの上げ下げで慢性的に痛いはずの腰は軽く、足の裏の引きつるような痛みもない。体が軽く、子どもの頃に戻ったようだ。 大きく手を振りながら歩く。目に入る自分の手の指に、鮮やかな赤い色のネイルが塗ってあることに気づく。本当ならそこで驚いて立ち止まり、自分の爪をまじまじと眺めるはずだ。だけど私はそれを視界に捉えながら、歩くことをやめない。 当たり前だと思ったからだ。 爪が美しい色に染められていること、それが当たり前のことだと思ったから。 いちいち気に留めることじゃない。これは私の体で、私の一部で、私の所有物。生まれた頃からそこにあり、死ぬまで私のもの。誰にも奪えない。 あって当然で、持っていて当然。その〝当然〟を、どうしてわざわざ愛でる必要があるのか。どこまでも歩いていけそうな軽い体を立ち止まらせて、うっとりと眺める必要があるのか。 そんな気持ちがごく自然に心の奥底から湧いてきて、それが光の粒になって、その粒がとろりとした美しい透明の蜜に溶けて、オーロラみたいな輝きを宿して、全身を満たして、それがこの、体の軽さの根源で、だからどこまででも歩いていけるのだと最初から知っている。 そういう感覚だった。 自分が歩いている場所が、どこかの大きなショッピングモールだと気がついたのは、視界の端を流れていく景色が、全部、素敵な洋服や雑貨のお店だったからだ。 ふと目についた店に入る。 ハンガーに掛けられた色とりどりの服に触れる自分の腕は細く白い。満ち足りた気分で店の中を歩き回る。値札を見るという当然の行為も、はじめから知らなかったみたいに軽い体からは抜け落ちている。 薄い緑、深い青、クレヨンみたいな橙色。 ハンガーにかけられたワンピースの色を眺めながら、その既視感の根源が懐かしさであると理解する。ああ懐かしい。学生時代、私は毎日、自分の爪をこんな色に塗っていた。 そう思った瞬間、私の白い腕は一着のワンピースを掴み取っている。腕を上げ、掲げるようにして眺めたそれは黒いワンピースだった。 ぼわぼわとした、生地をたっぷり使ったそのワンピースは、見たことのない黒だった。吸い込まれそうなほど深い黒なのに、後ろが透けて見えるかと思うほどに澄んでいる。 腰のあたりでキュッと絞られたデザイン、たっぷりのタック。着ればふわりと丸く、愛らしいシルエットになるだろう。どんな色も柄も敵わないほど、この黒いワンピースは〝かわいい〟の全てを持っている。 迷わず袖を通す。胸元を見下ろし、ワンピースが自分の体をちょうどよく覆ったことを確かめる。そのまま踊るように振り返ると、目の前には大きな大きな鏡がある。自分の姿が映し出される。そこではたと目が覚める。
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