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『西村景都。エッセイスト。
純喫茶を巡るInstagramが人気。
弊誌での連載をまとめた初となる著書
「ギンガムチェック」が12月24日発売予定』
画面を上までスクロールし、インタビューを最初から読んでみる。耳の中で心臓が脈打ってるみたいにうるさくて、空いている左手で無意識のうちに耳元をはらっている。目は必死に文字を追っている。
──西田さんのきれいなお肌は多くの女性の憧れです。普段どんなお手入れを?
西田:美味しいものを食べるのが一番だと思ってます(笑)。でもあなが
ち冗談でもないんですよ?食べたいものを食べたいときに、ちゃんと体に
与えてあげるのは大事だと思います。
──ストレスを与えない、と(笑)
西田:そうです、そういうことです(笑)。ケアで言うと、洗いすぎない
ことと、あと、洗った後のタオルですね。繊維の会社に勤めている友人に
プレゼントしてもらったタオルと出会って、〝タオル観〟が変わりまし
た。肌に直接触れるものってやっぱり大事なんだ!って。タオルを変えて
から、肌のトラブルはぐんと減りましたね。
うるさい、うるさい、うるさい。
それは自分の鼓動へか、インタビューの中の彼女へか、わからない。ただ頭の中でぐるぐると回る。うるさい、うるさい、うるさい。
逃げるように画面を消す。だけどまたすぐに画面を点けて、逃げたい気持ちはそのままに検索している。
『西田景都 インスタ』
映し出された四角い写真に目を這わせる。喫茶店の料理や内装を写したものではなく、最新の投稿として目に入ってきたのは白いワンピース姿の彼女だった。
白いストンとしたワンピースに繊細なレースが施されている。彼女の手には小さくて白い花を集めたブーケが握られている。どこかの森だろうか、彼女の背景には深い緑が広がっていた。
わかっている。白いワンピースがなんなのか。手にしたブーケが何を意味しているのか。だけどわかりたくない。それなのに、2枚目、3枚目と写真をたぐり、添えられた言葉を追っている。
『写真は全てナツキに撮ってもらいました』
ナツキは何者か。タグ付けされたその人のページに飛ぶ。「フォトグラファー」とある。
『大学からずっと大親友。ハヤセのスピーチで涙腺崩壊』
ハヤセとは。ページを飛ぶ。「上智大学を卒業後、」の文字がチカチカと光を放つ。
『会場の場所はないしょですが、子どもの頃から大好きなとある絵本に出てくる森をイメージして選びました』
彼女が指す絵本が何かわからなくとも、「絵本の中の森」としか形容できない甘えた森をバックに、結婚式にしてはラフな雰囲気の服装に身を包んだ参列者たちの中心で、彼女が笑っている。その隣には、彼女とよく似た笑顔の背の高い男の人。
『こんな私と10年もいっしょにいてくれてありがとう。これからもよろしく』
タグ付けされたその人のページに飛ぶ。恵まれた容姿を惜しげもなく収めた写真が画面に広がる。見たくない気持ちが勝って、プロフィール欄に目を移す。
「モデル/イラストレーター」の文字と並んでいたのは、「憧れの人/ケイト・ブランシェット」。
頭の奥の方で、ブツン、何かがちぎれた音がした。
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