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今見たばかりの文字たちが、写真たちが、頭の中でぐるぐると回っている。とても意味があるようで、何の意味もないように思えるそれらは、だって私とは関係がないのだからと自分に言い聞かせる。
まぶたを固く閉じてみる。耳の奥で金属音に似た耳鳴りがする。とても小さくて、生活音にかき消されるほどの耳鳴りは、だけどいつから鳴っていたんだろう。
1年前に見た夢の内容を鮮明に思い出す。頭の中からとっくに出ていったと思っていたその光景は、全然消えずに、脳みそにぺたりと貼り付いていたらしい。突如として私の目の前にだらりと広がる。
夢だと気づくまで心地よかったその光景が、今となってはとても虚しい。心地いいと感じた自分を嘘みたいだと思うのは、それが現実になることはないと、絶対にないと、わかっているから。
彼女が着ていたワンピース。黒い、たふたふとしたワンピース。
私が着た途端、かわいくなくなるワンピース。
受け入れられる気がしないのに全部、全部わかってしまうから苦しい。
残った力の限りを振り絞って、なんでだろう、検索窓に「ケイト・ブランシェット」と打ち込んだ。顔を見てもあまりピンとこない自分に打ちのめされる。好きでも嫌いでもない、憧れでもないその人のWikipediaをぼんやりと読んでみる。ピンとこない言葉の羅列が、この心と体を軽くしてくれるのを待っている。
『活動期間:1992年─』
その意味を理解したとき、心と体はやっと少しだけ軽くなった。1992、1992。口の中で数字を転がす。そうしていると、すうっと、胸の内を白い靄が覆っていく気がした。
あの夢で感じた万能感とは程遠いのに、なぜか、悪い気分じゃない。
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