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「西田さんて、おいくつなんですか?」
客足が落ち着いたのを見計らってレジカウンターから出ようとすると、声をかけられた。
メインのレジを担当する大学生の女の子が、生真面目な顔でこちらを見ている。
「えっと……35だよ」
彼女に近づきつつ答えると、「見えないですね」女の子は生真面目な顔のまま言った。
本屋のアルバイトに来る大学生は、基本的に大人しい子が多い。年齢を聞いてきた小芝さんも例外ではなく、大人しいに加えて真面目過ぎるから、こうやって律儀に私なんかとコミュニケーションをとろうとがんばってくれる。
「そんなことないよ」
「ここに勤めて何年ですか?」
レジから出ようとするのを止めるように、小芝さんは質問を重ねた。どこか泣きそうな顔に見えるのは、やっぱりこの会話を義務と捉えているからだろうか。本当はしゃべりたくなんかないのに、早く馴染めるように、話せる先輩をつくるために、これはしょうがないのだと、そういう義務。
「えーと……7年? か8年? か9年? かな。10年は経ってないはず」
「ここの前はどんな仕事されてたんですか?」
「ここの前? えーと……モスバーガー、サイゼリア……あと居酒屋とか。清掃の仕事もちょっとやってたかな。しんどくて続かなかったけど」
「それは……正社員ですか?」
「ううん、アルバイト。高校出てからずっとフリーターだから」
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