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小芝さんの表情が曇るのを、私は見逃さなかった。
まずいことを聞いてしまった。会話の入り口を間違えてしまった。そう後悔している顔だった。
まだ若い女の子を、なんだか自分が追い詰めてしまっているような気がしたから、
「今日暑いね、もうすぐ10月なのに。レジ担当でも、ちょっと隠れてお茶とか飲んで大丈夫だからね」
私は笑顔で言ってレジを出た。
今日が誕生日だということは、言う必要がないから言わなかった。
担当棚へと歩きながら考える。
私の年齢が、職歴が、生き方が、若い子を追い詰めているとしたら。私ってなんなんだろう。
売場に着くと、棚の乱れがやけに目についた。角を揃え、飛び出したスリップを戻し、ハタキを使うほどでもないからと表紙のホコリを手ではらう。
ふと、自分の手が目に入った。
水仕事ほどではないにせよ、紙は手の水分を奪う。
白くカサついた指先、本の仕分け中に切った無数の小さなキズ、いびつな爪。
彼女の対談を読んだあの日からずっと、私は変わらずネイルをしたことがない。ネイルをしていい仕事をしてこなかったし、爪の形は相変わらずだから、きれいにしようという気なんて起きなかった。
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