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30歳の誕生日、目が覚めて真っ先に思ったことは「彼女はまだ28歳なんだ」ということだった。
もう自分は若くないと思い、それを口にし、自虐的に年齢をいじる。28歳とはそういう年齢だと思うけれど、彼女はどんな28歳になっているんだろう。
仕事にも慣れただろうか。
後輩もできただろうか。
その後輩は仕事のできる人間だろうか、それともその逆か。
逆であればいい。
何度も同じことで間違えるようなヤツだったらいい。
話をろくに聞かないヤツだったらいい。
それなのに口ごたえだけは立派なヤツだったらいい。
彼女をイラつかせていればいい。
嫌味を言ってしまったり声を荒らげてしまったり、そういう自分に初めて出会い、彼女が自己嫌悪に陥っていればいい。
ウサギっぽさなども消え、ぼわぼわとしたワンピースも着ず、量産型のオフィスカジュアルに身を包んだ平凡な女になっていればいい。
31歳の誕生日に思ったのは、「彼女もあと1年で30歳か」ということだった。
32歳の誕生日に思ったのは、「彼女もついに30歳か」ということだった。
33歳の誕生日は、誕生日だということを忘れて過ごした。母が亡くなって、それどころではなかったから。
去年、34歳の誕生日には名前を検索してみた。どうせ何も出てこないと思ったから、ふとした思いつきみたいな感覚だった。
だけど、いくつかのサイトやネット記事がヒットした。
同姓同名が他にもいるんだろうか、と思った。しかし開いた記事の写真の中にいたのは、間違いなく彼女だった。
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