溺れるならコーヒーの海がいい

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 「ただいまー」  「おかえり。早かったわね」  「あ、そう?」  麗子はそそくさと部屋着に着替えソファにごろりと寝転んだ。  「なんかやになっちゃったなあ」  「どうしたの急に」  「みんな私を置いていっちゃうんだもん」  「置いて行かれたくなかったら……もがくしかないでしょ」   清美はぴしゃりと言った。  「苦しいじゃん」  麗子は何も考えずにそう応える。  「甘ったるいだけってのもなんだかつまらなく感じない?」  清美の一言を聞いたその時。麗子はぎらぎらとした緑のグラスが目に浮かんだ。今まで噛み合わなかった歯車がかちっとはまった音が鳴った気がした。  「うん……その通りだよ」  「あら、今日はやけに素直じゃない」  清美は不思議そうに麗子を見つめる。麗子の目は深い黒色に澄んでいた。  「どうせ溺れるならコーヒーの海がいいなあ」  「なにそれ、どういう意味?」  「ううん、なんでもない」  麗子はソファーに横たわりながら復学届けの書き方をスマートフォンで調べていた。
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