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* * *
さかのぼること、十数分前──
淡いブルーの空をバックに、時計の長い針、短い針が、ピタリとかさなった。
ゴーン、ゴーン。
ぐぅ〜、ぎゅるる。
頭の上でひびく鐘の音と合奏して、おなかの虫がけたたましく鳴いたときは、笑っちゃったよね。
「いい天気だなぁ。風もおいしいな、香ばしくてスパイシーで……
くんくん……これはミートパイとみました。カリッカリの焼きたて生地! 口のなかでじゅわっとあふれる肉汁!」
頭でっかちな時計塔が振り子をゆらして、午後のはじまりを街のみんなにしらせている。
そんななか、時計塔の足もとでもだえている愉快なだれかさんとは、なにを隠そうこの僕です。
「あぁ、この街にきたからには、ぜひともお目にかかりたかったです……リンゴン名物、焼きたてミートパイさん。でも無理か、だって20ペイだもの!」
所持金が。
バッグの底に落ちてたなけなしの全財産じゃ、ミートパイをひときれ買うのに、230ペイも足りない。
「『働かざる者食うべからず』……だけどその前に『おなかが空いて力が出ない』って名言がありましてねぇえ!」
要するに、ピンチというやつです。
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