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ベッドはゆっくりとおだやかに揺れている。
ゆりかごにいた赤子のころの遠い記憶なのか、懐かしく心地よい。
(もう少し、もう少しだけこのまま……)
覚めかけていく夢に、フェリサはしがみついた。
女だてらに王宮騎士などをやっていると、心身ともにくたびれることばかりだ。
昨夜もぼんくら王子につきあわされて、わけのわからない任務に就かされた。
ちょっとくらい寝坊したところで許されるべきだろう。
「……サ。フェリサ」
声がした。フェリサは眠りながら眉をひそめた。
(もう少し眠りたいんだってば……!)
だが、声はしつこい。
「ふぇーりーさー。フェリサ、おーいフェリサさん」
フェリサの眉間の皺が深くなる。
「フェリサさま、フェリサ嬢、フェリサ姫。どうかあなたの麗しきその茶色の瞳に、私めを映してはいただけませんか?」
まるで心当たりのない甘ったるいささやきに、フェリサの口もとが歪む。
他の女騎士もいる宿舎でこんなざれごとを聞かれては、数日はからかいの種になる。
地味に目立たず、道端の雑草のごとくひっそり生きていきたいフェリサにとっては、不本意この上ない。
「黙って!」
悪夢を怒鳴りつけると同時、フェリサはしぶしぶ体を起こした。
そして驚いた。
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