女騎士は第四王子のせいで頭が痛い

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 それを見たフェリサはすうっと息を吸いこみ――長らく封印してきた「声」を解放した。 「――――――」  人の声とは思えない透きとおった高音が、重い潮風をも震わせる。  柔らかく豊かな声は、聞く者の全身を包みこんで響きわたり、言葉よりもさらに深く鋭く胸を突き刺す歌となる。 「な――」  フェリシアンたちは一様に驚愕と恍惚に支配された。  歌声に囚われて、心身の自由を奪われる。  いまだった。 「逃げますよ!」  言っても聞こえないことは承知しながらも、フェリサは一声かけてリーヌスの手を引っ張った。  身動きできずにいる騎士たちのあいだをかいくぐり、すばやくタラップを駆けおりた。  船上から聞こえた歌の余韻に、港にいた者たちも陶然としている。  ――魔女の歌だ……。  誰かがぼんやりとつぶやいた。 「正解」  フェリサは小さく答え、リーヌスの手を引きながらさらに駆けた。        § § §  プラシッドの町をまさに発とうとしていた川船に乗せてもらって、西へと下ること丸一日。  傾いた太陽に影を深める町で、フェリサとリーヌスは下船した。  国境はすでに越えた。  こうなれば王宮騎士も容易には追ってこられない。
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