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「耳のパンも全部取ってあげましたし、もう何も問題はないですね。じゃあどうぞ勝手に元気にやってください。それでは」
「いやちょっと待って、フェリサ!」
リーヌスにくるりと背を向けて歩き出そうとしたフェリサは、強引に引き止められた。
不機嫌を隠さずにふりかえる。
「なんですか? 国を離れたら、あんたなんかただのぼんくらなんですが? もうこれ以上つきあう義理も情もないですよ」
リーヌスは、珍しく真剣な面持ちだった。
「ずっと考えていたんだ――船でのこと」
「ぼんくらがいくら考えても時間の無駄です。では」
「いやだからちょっと待ってって! あのとき、どうして王宮騎士たちは、僕たちを目の前にしながらみすみす逃がしたんだ?」
「奇跡でしたね」
「それにフェリサは、どうして僕の耳にパンなんか詰めさせたんだ?」
「口にも詰めてもらうべきでしたね」
質問はフェリサの返事を期待してのものではなく、自分の思考をまとめるためのものだったらしい。
リーヌスはよりいっそう考え深げに、フェリサを見やった。
「……いにしえの魔女は、美しい歌声で人びとを魅了し、惑わし、それゆえに当時の支配者に恐れられて迫害されたという……」
フェリサはあわてて、彼の手を振りはらった。
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