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「歴史のお勉強はひとりでゆっくりやってください。ではわたしはこれで」
逃げ出そうとした瞬間、真顔だったリーヌスが不意に微笑した。
「いいの?」
短い質問に、急に不安がかきたてられる。
確かめないほうがいいというはっきりした予感がありながら、フェリサは確かめずにはいられなくなる。
「は? 何がです?」
「ここしばらく、ずっと一緒だったからね。フェリサの顔ならもうここにしっかり刻みつけた」
リーヌスは笑顔のまま、こめかみを指で叩いた。
「まあもともとなんだけど、より鮮明にね。だから似顔絵だって描けるよ?」
このぼんくら王子の無駄なもうひとつの能力が、簡素な線でよく特徴を捉えた人物画だということをフェリサは思い出した。
ますます大きくなる不安に、フェリサは抗った。
「だ、だからなんだっていうんですか? わたしは画家なんて興味ありませんけど」
「画家か、それも悪くないな。町で描いたら小銭を投げてくれる人くらいいるだろうしね――リーヌス画伯最初の作品は、魔女の肖像、なんてどう? すごいうわさになるよ、きっと」
一見無邪気を装いながらも、リーヌスは実に悪い顔で微笑んだ。
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