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どんなうさんくさい用件だろうと覚悟していたのだが、港の居酒屋で会ったのは案外とまともな身なりの男で、彼と親しげに話しこむ王子を同じ卓で眺めるだけの仕事だった。
ただ、そのあと――
「……ええと、殿下から飲みものを勧められました」
「フェリサはあんまりああした店には行かないんだね。何も飲まないなんてマナー違反だよ?」
「なので仕方なく水を飲んだら、そのあとものすごく眠くなって、殿下にお帰りをうながして……」
「うん、限界だったみたいだから、肩を貸して店を出たよ。ただ、王宮じゃなくてこの船に乗ったんだけどね」
フェリサは目を真ん丸にみひらいた。
薄暗い船室で、リーヌスはまるで自身が太陽になろうとするかのような屈託のない笑顔になった。
「思い出してくれた? 大丈夫、ちゃんと王宮に書き置きは残してきたから。『僕の心はフェリサに盗まれてしまった。これからはふたりで幸せに生きていくので捜さないでほしい』って」
駆け落ち――誘拐犯――処刑――不吉な単語がぐるぐると頭のなかを回り出す。
ぱくぱくとむなしく何度か口を動かしてから、フェリサは思いきり主君を怒鳴りつけた。
「なんてことしてくれたんですか、このぼんくら王子!!」
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