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「ただの催眠薬だよ……。こっちには首飾りを渡して、それでもやっと二回分しかもらえなかったんだ。飲ませたら、なんでも言うことを聞いてくれるようになるという話だったんだけど――」
リーヌスはじっとフェリサを見た。
女騎士の両眼に冷たく燃える怒りしかないことを悟ると、がっくりと肩を落とす。
「僕との駆け落ちの話をちっとも覚えてないなんて、どうやらいんちき薬だったようだ……」
「当たり前です、どんな詐欺師に首飾りをくれてやったんですか!」
「魔女の弟子……」
フェリサはふんと鼻を鳴らした。
運命を説く占い師に、賢者を名乗る錬金術師、猫なで声の催眠術師。
偽の神秘を売る詐欺師にもいろいろいるが、よりにもよって数十年も前に各地で迫害されて消えた魔女たちの名を使うのは、あまりにもお粗末というものだった。
「だから、どこに出しても恥ずかしいぼんくら王子なんですよ。魔女なんてとっくに死に絶えてます」
うう、と今度はリーヌスが泣きそうになっている。
それでもフェリサは無情に言った。
「プラシッドの港で下船したら、まっすぐ町の兵舎に行きますからね」
§ § §
王子とそのお付きの騎士というよりは、護送される罪人とその見張りといった船旅のあと。
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