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卒業後も、さっそく王の親衛隊に配属されて出世街道をひた走っている彼とは、やはりまるで接点がない。
ただ、名前が似ているせいで養成校時代に何度か組分けが一緒になったことがある。フェリサの顔、少なくとも名前くらいは覚えているはずだ。
「フェリシアン、あなたでよかった! わたし、同期のフェリサ」
だがフェリシアンはフェリサを一瞥しただけで、無言で手で合図した。
彼の部下たちがフェリサたちを取り囲むように散開した。
フェリサはあせった。
「聞いて! これはリーヌス殿下の狂言で、わたしはただ巻きこまれただけで――」
「そうだ、手荒な真似はやめてくれ。おとなしく王宮に戻るから」
口添えしたリーヌスに、フェリシアンは視線を移した。
フェリサは驚いた。
人のことは言えないが、とても主君筋の第四王子に向けるものとは思えない冷たい目だった。
「ほら、これも返す」
そんな冷たい視線も予測のうちのように、リーヌスは落ちついて、服の隠しから取り出した紙筒をフェリシアンのほうへ投げた。
フェリサはまた驚いた。
甲板をフェリシアンの足もとまで転がったそれは、王が命令書を入れる紙筒だった。
「たしかにお返しいただきました。ですがリーヌス殿下、王宮に戻る必要はありません」
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