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杏樹がもう一度呼び鈴を押すと、扉の向こうでドタバタと足音が聞こえ、「Qui est-ce?」と呼びかけられた。間違いなく健司の声だと確信して、杏樹は日本語で叫んだ。
「わたし! 杏樹です! 昨夜、飛行機が遅れて……」
「え?……杏樹? マジ? なんで?」
なんでって約束していたじゃないのと杏樹が眉を顰める中、扉の向こうは妙に慌ただしい。しばらく待たされてようやく扉が開くと、上半身裸の健司が呆然とした顔で立っていた。
……なんで裸?
「杏樹は来ないって聞いて……」
「ええ? 誰に? わたし、昨日の夜遅くに空港について、ずっと電話したんだけど……」
「電話……」
「空港出たら無料WiFiがなくって、今まで電話できなかったの。だから、突然来ることになってごめんなさい」
健司の表情がみるみる蒼白になっていき、杏樹は不安に駆られる。
「……約束、してたよね?」
下から覗き込むように見上げれば、健司が緩く頷いた。
「う、うんでも……美奈ちゃんが……」
「美奈ちゃん?」
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