14、行列のできる高級ブランド店

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14、行列のできる高級ブランド店

 目が醒めた時、パリは、まだ日の出前の暗さ。  点けっぱなしにしたベッドサイドランプの薄明かりの下、杏樹の目の前には、眠る男の整った顔と伏せた長い睫毛があった。腕枕から頭を上げようとしたが、彼の腕が裸の身体に巻き付いていて、身動きが取れない。 「ん……」  杏樹の身じろぎに、男も覚醒したらしい。 「杏樹……? 今、何時?」 「まだ、夜明け前。ごめんなさい、起こしちゃった?」 「いや……」  桜井がベッドサイドのスマホに手を伸ばし、時刻を確認する。 「六時か……もう少し寝れるけど……」  スマホを置き、杏樹の方を見る目が色っぽい。 「気分は? しんどいとこない?」 「しんどいは、辛いってこと? とくにはないです」  桜井が杏樹の頬を撫で、微笑む。   「……昨日はごめん」 「え、雅煕さん、なんで謝るの?」 「だって、俺しか気持ちよくなってへん」 「そんなことないです」 「気持ちよかった?」 「えっと……」  杏樹が返答に窮して視線を逸らす。――そんな恥ずかしい感想、言えるわけない。  桜井の手が、杏樹の肩を抱き寄せる。
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