14、行列のできる高級ブランド店

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「ああいうオバサマ向けに、日本人スタッフがいたはるねん。兄貴から俺がパリにおるって聞いたんやろな。面倒くさ……」     膨張したクセ毛をかき上げて、桜井が額を押さえる。 「……というわけで、今日のデートは強制的にシャンゼリゼ通りのブランドショップです。せや、ついでに財布とバッグも()うたげるわ。無いと不便やもんな」 「いえ、そんな。……なんか悪いし……」  遠慮する杏樹に桜井が言い放った。 「どうせ親父のカードや。無職の俺でよければ、なんぼでも貢がしてもらうさかい。――親の金で」 「それ、ただのドラ息子じゃん!」  杏樹が噴き出し、二人は顔を見合わせて笑い合った。  その日、学会の最終日だった桜井とは、五時半にホテルで待ち合わせた。  学会仕様のスーツを脱いでダサいネルシャツを羽織る姿に、杏樹は「あー、それ着ちゃうんだ」とものすごい残念感に襲われるが、「その服ダサいからやめてください」と言う、勇気はなかった。
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