14、行列のできる高級ブランド店

5/8
前へ
/337ページ
次へ
 エトワール凱旋門でバスを降り、シャンゼリゼ通りを歩いて、目当ての高級ブランド本店に向かう。街路樹のマロニエは落葉してなんとなく侘しいものの、世界中からの観光客が溢れる通りは、日が落ちても街灯が灯り、趣向を凝らしたショーウィンドーが眩い光を放っている。 「スリも多いし、はぐれるとあぶない」  手を繋いでウィンドーを冷やかしながらいくと、行列ができていた。 「……何の行列?」  二人の進行方向に向かって続く行列の先端は、目当ての高級ブランドの本店だった。 「え、こんな並んでるの?」    杏樹がびっくりする。だが、桜井は全く動ずることなく、そのままずんずんと店の玄関に進んで、警備員に話しかける。   「え、雅煕さん……?」 「大丈夫やから」  警備員がインカムで何か店内に告げ、「Attendez un instant, s’il vous plaît !(少々お待ちください)」と言われてしばし待つ。店内からインカムで呼ばれた店員と桜井がやり取りする間、少し離れて杏樹は待っていた。  すると、背後から日本語で呼びかけられる。 「杏樹? あんた何やってんの?」
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2332人が本棚に入れています
本棚に追加