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嫌な予感のまま振り向けば、案の定、行列の中に美奈子と健司がいた。杏樹は行儀悪いとは思いながら、思わず舌打ちした。
「……何ってどうでもいいでしょ。街で会っても呼びかけないでって言ったじゃない」
「そうも行かないでしょ? あんたとあたしは親戚なんだから。あたしだって、好きであんたと関わってるわけじゃないわよ」
赤茶に染めた髪をかき上げながら、美奈子が高飛車に言う。白いミニ丈のフェイクファーのコートに、黒いマイクロミニのスカートに黒のハイヒールのロングブーツ。チェーンショルダーの黒革のバッグの金色のロゴをこれ見よがしに光らせている。日本人にあるあるとはいえ、杏樹が事前に読んだパリ旅行の注意書きに拠れば、パリでは娼婦に間違われかねない服装だ。
「日本では親戚でも外国でまで絡む必要はないでしょ? 放っておいてよ。それがお互いの為と思うわよ?」
妙に派手な娼婦みたいな女と知り合いだと思われたくないと、杏樹が内心思っていると、健司まで寄ってきて、強引に左腕を掴む。――白いダウンがお気に入りなのか、タイヤメーカーのキャラクターじみていて、こちらも正直恥ずかしい。
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