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「杏樹、ちょっと話そうよ」
「こんなところでやめてよ。並んでないと順番飛ばされちゃうよ?」
「今は杏樹の方が大事だよ」
「こんな往来でやめてよ、恥ずかしい」
掴まれた腕を振り払おうと抵抗していると、背後から伸びてきた長い腕が杏樹を抱え込んで、グイッと引き寄せられる。
「杏樹、何してんの、中、入んで」
見上げれば、杏樹より頭一つ背の高い男が、長身で威嚇するように健司を見下ろしていた。
「なんだよ、お前……」
思わず怯んで手を離した健司から引き離し、だが桜井はまるでその場にいないかのように健司と美奈子の存在を無視して、杏樹の肩を抱いて向きを変えた。桜井の背後に控える、名札を付けた日本人らしき女性が杏樹に問いかける。
「桜井様のお連れ様ですね? 専用サロンにてご対応させていただきますので、こちらにどうぞ」
「え、並ばなくていいの?」
驚く杏樹の背後から、美奈子が金切り声を上げる。
「ちょっと、どういうことよ! あたしの方が先に並んでたでしょ!」
しかし、日本人スタッフはにっこり微笑んで告げる。
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