15、VIPルームとマジックテープ財布

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「ご家族でご愛顧いただいておりますね。先月は幸煕(ゆきひろ)様にもご来店いただきました。婚約者へのプレゼントだとおっしゃって」 「あー、兄貴はあちこち飛び回ってるから。あれこれ貢いでご機嫌取りに苦労してる」  フランス人スタッフが持ってきた長財布をテーブルに並べ、杏樹に微笑む。 「こちらは今年の新作で、お若い方に人気です」  勧められたのは、ブランドロゴがやたら大きく打ち出されたもの。――どうせなら流行に無関係で長く使えるものがいいと思い、杏樹はごく普通の、モノグラムが型押しされたものを指さした。 「じゃあ、お言葉に甘えて……これにします」   遠慮がちに言う杏樹に、桜井が尋ねる。   「バッグはいい?」    「今はお財布だけで。……これ、借りてるし」  杏樹が黒革の小型のメッセンジャーバッグを撫でれば、日本人スタッフが言った。 「メンズ向きの商品ですが、女性が持たれても可愛らしいですね」     今すぐ使うからと包装は無しにし、免税の書類を作成してもらう。
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