2324人が本棚に入れています
本棚に追加
/337ページ
なぜここでイトコの美奈子の名前が出てくるのかと、杏樹が首を傾げたその時、部屋の奥から聞き覚えのある、気だるそうな声がかかる。
「ねえ、健司~? シャワー浴びていい?」
「ああ!? み、美奈ちゃん、なんで杏樹は来ないなんてウソを!」
振り返った健司の肩越しに、素肌にバスローブ一枚の姿でしどけなく立っていたのは、杏樹のイトコ(実はハトコ)にして天敵ともいうべき北川美奈子だった。
「美奈ちゃん? スペイン行ったんじゃなかったの?! 何でここにいるの!」
「えー、スペイン飽きちゃってぇ? 健司がパリにいるの思い出してさ、来たの~。杏樹はバカだから知らないかもしれないけど、スペインってフランスの隣なのよ?」
「バカにしないで、そのぐらい、わたしだって知ってるわよ!」
反論しながら、杏樹はだいたいのことを悟った。
杏樹と祖母は、北川家の広大な屋敷の、離れに暮らしている。母屋に住む二歳違いの美奈子は、杏樹の何が気に入らないのか、幼い頃から何かにつけて嫌がらせを繰り返してきたから、今回も邪魔しに来たのだ。
杏樹はうんざりした。
最初のコメントを投稿しよう!