15、VIPルームとマジックテープ財布

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 桜井がポケットから例の、黄緑色のマジックテープ財布を出して、バリバリッと強烈な音を立ててカードを取り出す。さすが、日本人スタッフは顔色一つ変えずにカードを受け取り、カードリーダーで読み込む。 「……雅煕さんは、ここのお財布使わないんですね」  杏樹の素直な疑問に、桜井は肩を竦める。 「うちの家訓やねん。『財布本体に金をかけるべからず』。安ければ安いほど良しとされんねん」 「そんな家訓が!」  日本人スタッフが、ハッとして顔を上げる。――内心、なんでそんな財布なのか、気になっていたのだろう。 「これ、子供のころに行ったキッズケヤって言う、お仕事体験テーマパークで、子供銀行みたいなのに口座作ってタダでもろうたやつ」 「百均ですらなかった!」  思わず呟く杏樹を横目に見ながら、日本人スタッフが恐る恐る尋ねる。 「……では、幸煕様がフェルト財布だったのも、もしや家訓――?」  「せや、兄貴は小学校の家庭科の授業で作った財布をずっと愛用してる。毛羽立ってきてそろそろ限界や、ゆうてた。ちなみに親父は、税務署からの封筒を再利用して財布代わりにしてる」  
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