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――それはもう家訓じゃなくて、奇習の域だ。
周囲の驚愕にまったく動じず、桜井は返却されたブラックカードをマジックテープ財布にしまった。
日本人スタッフに見送られて店を出たところで、案の定、美奈子と健司の待ち伏せに遭う。
「健司に振られたからって、速攻でダサ眼鏡の成金を捕まえるなんて、やっぱり母子三代のアバズレは違うわね」
腕を組んだ美奈子に侮蔑の言葉を投げかけられて、杏樹はさすがにムッとする。
「外国の往来で、声高にデマを流さないでくれる? 迷惑な上に日本の恥だわ。日本語のわかる人だっているかもしれないんだから」
「デマじゃないわよ。母子二代の不倫の挙句に産まれた生粋のアバズレのくせに。何よ、そのダサい男。金の匂いを嗅ぎ付けて、冴えない男と不倫して、これ以上、我が家の評判を下げないでよ」
「美奈ちゃん……」
さすがに少しは常識のある健司が、美奈子の白いフェイクファーのコートを引っ張って窘めるが、美奈子は桜井のダサさに勝利を確信しているらしい。
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