15、VIPルームとマジックテープ財布

6/7
前へ
/337ページ
次へ
「だって、年も近いイトコに、こんな天然でアイドルも真っ青な美少女がいたら、そら、世の中の理不尽を恨みたくもなるわ。マジで同情する。言うたら悪いがイトコさんはフツーの顔やもんなあ。……しかも妬みと恨みが表に出て、眉間に皺がよって、ホラ、あの能面の! 般若みたいになってんで。正直、ちょっと怖い」  柔らかな関西弁のイントネーションでつづられた、真綿から針が突き出たような暴言に、美奈子が絶句する。   「ど、ど、どういう意味よ!」 「あ? 理解でけへんかった? まあ、現実を見たくない気持ちもわからんではないな。でも、君がどれほど血筋で彼女を蔑んでも、客観的に、知らん人からどっちがアバズレに見えるか言うたら、そら、君のほうやで」 「なんですって!」 「さっき遠目に見て、夜の女が出張してきたんか、シャンゼリゼも物騒やなって思うたもん。幸いにも、この辺の人のほとんどは日本語わからへんから、見た目が十割で判断するやろうし、日本語わかる人間ならなおさら、見た目アバズレの君の言うことなんて、説得力ゼロよ」  桜井はそれだけ言うと、杏樹の背中に手を当て、長身をややかがめるようにして言った。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2333人が本棚に入れています
本棚に追加