16、杏樹の事情

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「美奈ちゃんが言った通り、おばあちゃまはフランスで妻子のいるおじいちゃまを好きになって、ママを産んだの。五十年前のことで、おばあちゃまは日本であれこれ言われたみたい。ママはハーフで美人だったから、女優になって、主演した映画の監督と結婚したんだけど、妊娠中に相手の浮気が発覚して離婚したの。……北川の家にとっては母子二代続けての醜聞(スキャンダル)で、火消しが大変だったみたい。ママはその後、マスコミに追いかけられるのに嫌気がさして、わたしをおばあちゃまに押し付けてアメリカに行っちゃった」     北川の家では散々、スキャンダラスな生まれを非難されてきた杏樹は、それを美奈子に暴露されてしまい、でも桜井に隠すべきでないと思い、正直に話した。  フランス人との不倫の挙句に産まれた母と、杏樹の妊娠中に別の女優と浮気したクズ男の映画監督である、父。父は養育費を一括で支払った以後は、没交渉だ。親に捨てられたに等しい杏樹は、北川家の離れで祖母に育てられた。 「え、お母さん、女優? すごいな! それも、マスコミに追いかけられるくらい、有名な?」  単純に驚いたらしい桜井に、杏樹が頷く。
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