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「う、うん……喜多川マリって知ってる?」
「知ってる知ってる! なんか映画で賞もらってたやん。めっちゃ美人の! ……ていうかマジ? あの人、こんなデカい娘がおんの?」
「だってママ、もう五十よ?」
「ぜんッぜん、そんな歳に見えへんわ。……うちの叔父さんがファンやったんちゃうかな。まあ、あの人はやたら惚れっぽいけど」
桜井の反応に、杏樹は少しだけホッとしたが、でもすぐに不安になって俯いた。女優・喜多川マリは、ベッドシーンも躊躇しない。体当たり演技派と言えば聞こえはいいけれど、映画館の巨大スクリーンで母の裸を目の当たりにした衝撃は忘れられない。
「ママ、美人だし、お金も出してくれるけど、今だに会うたびに恋人が替わってるの。マスコミにすっぱ抜かれるたびに、美奈ちゃんや美奈ちゃんのママが、年甲斐もなくみっともない。顔しか取り柄がないから、女優なんて恥ずかしい仕事して、家の恥さらしだって……」
俯く杏樹の頭を、桜井がポンと軽く叩き、言った。
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