16、杏樹の事情

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「健司は、わたしに外国の血が入っているのカッコイイし、ママも女優なのすごい、って言ってくれたから……」 「それは今時の普通の反応やないかな。イトコらがおかしいだけや……」  桜井が杏樹の手を握って言った。 「初めて見た時、こんな美少女、神の造形かと思ったけど、女優の娘でクオーターなら納得や。芸能界のスカウトとか来るんちゃう?」  大げさだなと思いながらも、桜井に美少女と言われるのは、悪い気はしない。――少なくとも杏樹の顔と、胸は気に入られている。 「……時々。ママもわたしをデビューさせたがったけど、おばあちゃまが絶対ダメって。……ママがベッドシーンも撮ったり、写真集出した時に、芸能界なんて許すんじゃなかったって大激怒したみたい。わたしも別に女優はやりたくないな。台詞覚えるの大変そう」  「あー……なるほどね」    桜井が頷く。 「思うに、あのイトコは杏樹が羨ましくて妬ましいんや」  杏樹が目を丸くして、桜井を見上げた。 「美奈ちゃんが? わたしを?」 「怨念の塊みたいに俺には見えたな」     杏樹は首を傾げる。 「そんな羨まれるようなことはないけどな……」
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