1、最悪のバレンタイン

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(美奈ちゃんは健司のことなんて、何とも思わないって言ってたのに!)  小野木家と北川家は家族ぐるみの付き合いで、健司の嫁に美奈子を、なんて話もあったのに、幼馴染と結婚なんてと断ったのは美奈子である。が、杏樹と健司が接近したのを見て、健司を奪い、さらに見せつけようとパリまでやってきたのだ。  わざわざ、二月の頭から大学の友人たちとスペインとポルトガルを回る、なんて偽装工作までして。――暇すぎない?    杏樹は裸に近い姿の二人が、今まで何をしていたのか薄々気づいて、吐き気がした。  健司の家に泊めてもらう以上は、杏樹だって覚悟の上だ。――ずっと片想いしていた相手だ。初めてをもらってもらうなら、健司がいいと思っていた。    ――でも。    杏樹とパリで逢う約束をしていたのに、健司は美奈子の嘘にあっさりひっかかって、しかも美奈子と関係を持ったわけだ。 (何こいつ、気持ち悪……。女なら誰でもいいってこと?)     百年の恋も醒めた気分でじとっとした視線を向ければ、健司は杏樹と美奈子を交互に見て、アワアワしている。 「あ、その、杏樹、これは――」
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