16、杏樹の事情

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「今の日本で、母親はハーフの美人女優で、自分もその気になれば芸能界にデビュー可能って、普通に羨ましがられると思うで?」 「そうかなぁ? ママのせいで迷惑してる、って苦情しか言われたことないけどなあ……」  桜井が苦笑した。 「めっちゃ羨んでるときほど、羨んでるって知られたくないもんや。……杏樹、子供のころから可愛いって言われてきたやろ」 「んー、まあ、そうかな? 逆に、顔しか取り柄がないとも言われてきたけど……」 「あのイトコは、おそらく杏樹が可愛い可愛い言われるのを横でずーっと見てきて、羨ましいが積もり積もって、憎しみと怨念に変わったんやろな。まじで般若みたいな顔してた」 「別に、美奈ちゃんも可愛くないわけではなかったわよ。プチ整形して目が不自然になって、化粧が濃くなったけど……美奈ちゃん、大学入ってからすごく派手になって、彼氏もとっかえひっかえしてるみたい」 「見かけへの執着が、間違った方向に暴走したんかな……」  冷静に分析する桜井を真横から見上げれば、整った横顔が目に入る。
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