16、杏樹の事情

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 北川の家も東京ではそれなりの名家と言われていたが――それゆえ、祖母や母の醜聞を過剰に気にしていたのだが――高級ブランドのパリ本店に、担当の日本人スタッフがいるほどではない。間違いなく、桜井家は北川家より格上なんだろう。    桜井自身は杏樹の生まれを気にしないと言ったけど、桜井の家族もそうとは限らない。東京の上流社会で、祖母が陰で言われてきた心無い言葉を、杏樹もまた知らないわけではない。   (やっぱり、どう考えても釣り合わないわよね……年も八ツも上だし。しかも美奈ちゃんが暴言まで吐いてるし……)     杏樹は思いだしてため息をつく。 「美奈ちゃんが雅煕さんにまで、ダサ眼鏡だの成金だの……本当にごめんなさい。桜井さん、イケメンのエリートなのに……」 「……まあ、確かに、俺のファッションセンスは壊滅的やけどな」    杏樹が目を剥いた。 「自覚はあるんだ!」
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