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「お邪魔虫は去ります! さよなら! お幸せに!」
啖呵を切ってバタンと扉を閉め、大急ぎで狭いエレベーターに飛び乗って、杏樹はアパルトマンを出た。一歩でも遠ざかろうと、後ろも見ずにスーツケースを引いてずんずん歩いて――
気づけば、わけのわからない場所にいた。
(あー、最悪のバレンタインになっちゃった……)
これからどうしようかな、と石畳の道に立ち止まり、ふっと気を抜いた瞬間、突然、背後から突き飛ばされてスーツケースごとすっころんだ。杏樹にぶつかった男は杏樹のバッグをひっつかんで、路地に消えていく。
「誰か! あたしのバッグ! ドロボー!」
右も左もわからない異国で、初恋に破れた杏樹。泣きっ面にスリとばかりに財布もスマホも、パスポートまで奪われてしまった。
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