18、釘を刺される

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18、釘を刺される

 20世紀初頭、探検家にして天才的な東洋学者であったポール・ペリオが、中国の西北辺境の敦煌(とんこう)莫高窟(ばっこうくつ)より持ち帰った計三万冊に及ぶ膨大なペリオ文書は、現在、フランス国立図書館のリシュリュー館に所蔵されている。十九世紀に建てられた美しい図書館で、三度のメシより楽しい史料調査――のはずだが、今日の桜井は心ここにあらず。ふとした瞬間に、昨夜の情事に記憶がチラついて、作業の手が止まりがちになる。  淡いライトの光に照らされた美しい肢体。浮いた鎖骨と、その下の魅惑的な二つの膨らみ、掌に吸い付くようななめらかな肌。  生身の女の裸体というのは、こんなに美しいものだったのかと、二十八年の人生で初めて知った。  
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