18、釘を刺される

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 ――いや、百に一つか二つか十個くらいは、下心はあったかもしれない。  だいたい、男が女の世話を焼くときに、下心がないわけはない。可愛い顔でニッコリ笑って「ありがとう」ってお礼を言われるくらいでも、男の下心なんてそこそこ満たされてしまうものだ。桜井だってそれ以上のことは期待していなかった。……たぶん。     お礼をしたい、と言い張る杏樹に、ついうっかり、「じゃあ体で返して」と口走った時は、むしろ無自覚な下心の発露に呆然としたし、杏樹が真に受けて、「処女をもらってください」なんて言い出した時には、自分の失言をひどく呪った。  綸言(りんげん)、汗の如し。  失言は、取返しが効かないのだ。    そもそも、このアイドル級に可愛い女が処女というのも信じがたい。そこから、「世の中捨てたもんじゃないな」という、訳の分からない感慨に落ち着く。
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