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左手で持ったスマホを左耳に宛がい、桜井が呼びかけると、一瞬の間の後に老婦人の声がした。
『もしもし、サクライさん? 杏樹の祖母です。お出にならないかと思ったわ』
「えらいすいません。図書館にいてるので、通話のできるエリアが遠くて」
『ああ……学者さん、でいらしたものね。今、よろしい?』
「ええまあ……それほど長くなければ」
電話の向こうの老婦人が少し躊躇ってから言った。
『サクライさん、単刀直入にお尋ねするのだけど、あの子と寝て、どうなさるおつもりだったの?』
いきなり豪速球ストレートの質問が飛んできて、桜井は思わず右手で鳩尾を押える。
「ど、どおって……その……」
『あの子のこと、責任を取る覚悟がおありになるの?』
「せ、責任?」
『それとも、旅先の行きずりのつもりだったのかしら?』
「僕は、その……そんなつもりでは……」
『ああ、その前に、ひったくりに遭ったあの子を助けていただいたことは、お礼申し上げなければいけませんわね。あなたがいなかったら、もっとひどいことになっていたかもしれない。お金も貸してくださって……ホテルも――』
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